《お座敷芸》 能「望月」では、敵を油断させる為に、安田の妻、花若、小澤の三人が、「謡」「八撥」「獅子舞」の芸を演じます。その座敷では、敵の望月主従が片手に盃を、もう一方は肘掛にでも置き、足をくずし、くつろいでいるのでしょうか。そこで行われる「お座敷芸」は、さぞユッタリと時間が流れていく事でしょう。 〈盲御前の謡〉 「それ迦陵頻伽は卵の内にして声諸鳥に勝れ、鷙と云う鳥は小さけれども、虎を害する力あり。 ここに河津の三郎が子に、一萬箱王とて、兄弟の人のありけるが。五つや三つの頃かとよ。父を従弟に討たせつつ。既に年経り日を重ね、七つ五つになりしかば、稚かりし心にも父の敵を討たばやと、思いの色に出づるこそ、げに哀れには覚ゆれ。 或時兄弟は、持佛堂に参りて、兄の一萬香を?き、花を佛に供ずれば、弟の箱王は、本尊をつくづくをまもりて。いかに兄御前聞し召せ。本尊の名をば我が敵、工藤と申し奉り、劔を提げ縄を持ち、我等を睨みて、立たせ給ふが憎ければ、走りかかりて御首を打ち落とさんと申せば。兄の一萬これを聞きて。いはけなや。如何なる事ぞ佛をば、不動と申し敵をば、工藤と云うを知らざるか。さては佛にてましますかと、抜くいたる刀を鞘にさし、免させ給え南無佛。敵を討たせ給へや。」 〈幼き者の八撥〉 「吉野龍田の花紅葉。更科越路の月雪。」で始まる、鞨鼓の舞。 〈宿の亭主の獅子舞〉 「獅子團乱旋は時を知る。」(しし<獅子>とら<虎>でんはときをしる。)で始まる、獅子舞。獅子舞も、能「石橋」の用に本物の獅子が登場するのではなく、酒の座敷で、「ホコリを立てぬ様に」客の前で舞っているのでしょう。 能の客席に酒は出ませんが、舞台の上の望月主従も眠ってしまうのですから、どうぞ、ユッタリご覧下さい。(文、上田拓司) |